兼松エレクトロニクス(商社兼松の製造業向けIT子会社)は、横浜を拠点とするMBD/CAE、モデルベース開発、シミュレーション解析ソフトウエアの専門企業IDAJを完全子会社化するための株式譲渡契約を締結した。兼松が関東財務局に提出した臨時報告書によると、取得価額は株式分が約390億円、アドバイザリー費用が約3.6億円で、合計約394億円としている。取引は契約に記載された規制上の承認その他の条件を前提に2026年10月1日に完了する予定で、最終的な価格はクロージング時に調整される可能性がある。
取引の構造は多層的だ。兼松エレクトロニクスは、特別目的会社BCJ-61の全株式52,177株(議決権の100%に相当)を取得する。取得前の保有株式数はゼロだった。BCJ-61は米プライベートエクイティ会社BCPE Advance Cayman, L.P.と日本の投資持株会社が50対50で出資しており、BCJ-61はさらに持株会社BCJ-62を保有し、BCJ-62がIDAJの株式100%を保有している。IDAJ自身はIDxLという小規模な子会社を完全子会社として持ち、IDxLはさらに、届出書ではRCと略称される一段小さな子会社を完全子会社としている。兼松の取締役会は2026年7月10日の会議で最終決定を社長に委任し、決定と契約締結はいずれも2026年9月18日に行われた。
兼松は今回の買収を、バリューチェーンの上流への進出と位置付けている。同社の製造業向けITビジネスは現在、ITインフラ、業務システム、PLM/PDM、MPM、MESツールを製造業向けに販売しているが、経営陣はさらに上流に位置する設計・解析業務にも領域を広げ、「設計から製造まで」顧客を支援したいとしている。IDAJはシミュレーション技術、エンジニアリング人材、ソフトウエア群を持ち、兼松は自社の既存顧客基盤と合わせてクロスセルを図る計画で、既存の自動車分野に加え、半導体、防衛、重工業、電気・電子分野の顧客も開拓する狙いだ。兼松は今回の取引を、より幅広い「ソリューションプロバイダー」への進化を掲げる中期計画「integration 1.1」と結び付けている。
兼松が買収するこの事業は成長を続けている。2025年9月期のIDAJの単独売上高は144.1億円、営業利益は27.8億円で、いずれも3年前から増加した。
| 指標 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | ¥11.69bn | ¥13.16bn | ¥14.41bn |
| 営業利益 | ¥2.42bn | ¥2.43bn | ¥2.78bn |
| 純資産 | ¥4.76bn | ¥6.96bn | ¥8.99bn |
この成長の一方で、同グループ内には業績が振るわない事業もある。IDxLは2025年9月までの9カ月間(決算期変更により短縮された期間)に営業損失7200万円、純資産はマイナス2億9800万円となった。同社の純資産は2024年12月期以降マイナスが続いている。RCはさらに規模が小さく、同じ9カ月間に純利益200万円を計上したものの、純資産はマイナス900万円だった。兼松は、収益性の高い中核事業と損失を抱える事業をまとめてグループ全体を買収するのであり、IDAJ単体を買収するわけではない。
兼松は、今回の買収による当期の連結業績への影響は軽微になる見通しだとしている。IDAJ、IDxL、RCが連結対象となった後もこの見通しが維持されるかどうかは、クロージング時に確定する条件と、10月1日の完了までに必要な規制当局の承認が得られるかどうか次第となる。
